コーディネーターブログ
2022.07.27【お役立ちコラム】アーティストの現状と学びがもたらす可能性(後編)
コラム
こんにちは。
今月のコラムはNPO法人日本アーティスト協会 代表理事、アーティストキャリア専門家のガリバー宇田川氏の「アーティストの現状と学びがもたらす可能性(後編)」です。
音楽家の皆さんや音楽レッスンを受講されている生徒、親御様向けに、間も無く発売となる書籍から一足早くお届けする内容も含め、音楽やアートに携わるお話しになっています。
アーティストの現状と学びがもたらす可能性(前編)では社会や業界ごとのルールや商流を理解し、必要な能力を身に付けられる人なら、業界の垣根を超えて活躍できる時代だからこそ、「自分が何をしたいか」を明確にするには音楽やアートを学ぶ過程が役に立つこと。
更に、音楽やアートを趣味にしたり表現することは、自分をブランディングする最良の方法であることを学びました。
今回の後編では、アーティストの職業イメージとの戦い、収入などの現状と共に「音楽やアートを学ぶ価値」についてです!
◆職業イメージとの戦い◆
現代のアーティストは表現活動をするだけでなく、その過程で企画、制作、マネジメント、デザイン、PR、マーケティングなど、様々な職業を兼ね備えた存在です。
そう前回お話した「起業家」であり「実業家」なのです。
しかし、多くの人のアーティストに対するイメージは旧来のまま。
「パフォーマンスこそ生業であるべき」で、それ以外の仕事をする姿は違和感や嫌悪感を持つ人さえいます。
アスリートや芸能人に対しても同じ反応が見られ、一芸を持つ人にとっての大きな悩みとなっています。
私自身、若い頃はさんざん「本業に集中しろ」「だから売れないんだ」などと言われました。
テレビオーディションで優勝したり、メジャーデビューしても、その声は変わることはありませんでした。
「頑張ってるだろう!」
「これ以上どうしろと言うんだ?」
そんな思いに日々悩まされていました。
外の人から言われるならまだしも、身内と思っていた同業者からも陰で言われていたことは悲しかったですね。
しかし生来の負けず嫌いなもので、頑なに「全部やるのがアーティストだ!」「結果を出して証明する!」と譲りませんでした。
やがて働き方改革、副業解禁を迎え、潮目は一気に変わりました。
今では「色々やっていて面白い。話を聞かせてほしい」という声をいただき、あの悩んだ日々が嘘のように、自信を持って皆さんの前に立たせていただいています。
後になってみると、私にヤジを投げていたのは「アーティストとはこうあるべきだ」と言いたいだけの外野であり、お客様でも、プロの現場で生き残れる人でもなかったです。
現代において、SNSや事業を行う上でも同じ現象が起こります。
その結末を身をもって知れた点では良い経験だと思っています。
例えば、楽天やソフトバンクといった野球チームを運営する大企業の社長はプロ野球選手ではないし、野球チームの成績が悪いからといって「携帯だけ作ってろ!」なんて言われないですよね。
それは様々な事業を行っていることが認知されているからです。
これからは「どんなアーティストなんですか?」と聞かれた時に
「ロックです」「クラシックです」ではなく、
「音楽では演奏と作家業を。アパレル事業や幼児教育もやっています。」と言うのが当たり前になるでしょう。
◆アーティストの収入◆
スキルやパフォーマンスを追求することはすべてのアーティストにとって必要なことです。
しかし、それだけで生計を立てられる人はどれだけいるか数字で見ていきましょう。
国勢調査データによると、芸術家・クリエイターの人口は日本の全就業者6,153万人のうち約1%の60万人。
音楽家は約0.3%の20万人です。
社会人1,000人のうち3人は音楽で生計を立てている計算になりますね。
音楽家の中でも、一般の皆さんが最もよく目にするのは、テレビなどのメディアに出演するアーティスト。
プロダクションやレコード会社と契約を交わしてメジャーデビューする人数は、毎年400組前後です。
これは音楽家20万人のうちの約0.3%、芸術家・クリエイター60万人のうちの約1%にあたります。
日本の全就業者だと約0.0007%、つまり10万人に1人にも満たない人数です。
この確率は雷に打たれるのと同じ確率と言われています。
さらにその中でも各レコード会社が数千万円投資して売り出すアーティストは、1社あたり年に1~2組程度。
「国民的有名人になることこそ成功のロールモデルだ」と言い切ってしまうのは乱暴な気がします。
音楽家20万人のうち、そうではない99.7%の人は無名で価値の無い存在なのでしょうか?
国勢調査からのデータから分かるのは、雷に打たれる確率ほどレアな存在でなくても、生計を立てられる可能性のある人が20万人いるという事実です。
では、収入はどうでしょうか。
求人情報・転職サイトdodaによると、2021年の年代別の平均年収は
20代で341万円
30代で437万円
40代で502万円
50代以上で613万円
となっています。
日本でも音楽家の平均年収のデータはあるのですが、独自調査かつクラシックなど限られた領域のデータが多いため、平均年収は200万円〜600万円と大きな幅があります。
そこで海外のデータをご紹介しましょう。
アメリカのミュージシャンの平均年収は約386万円。
そのうち音楽関連の収益は約235万円です。(※1)
※1 2017年 非営利団体Music Industry Research Association(MIRA)がミュージケアーズとプリンストン大学Survey Research Centerと共に行った、アメリカのミュージシャン1227人を対象にした調査の結果
これはサブスク型の音楽配信サービスがスタートする前とほぼ変わらない数値で、音楽ビジネスの隆盛とアーティストの収入との因果関係は薄いことが証明されるデータとなっています。(※2)
※2 2012~2016年 American Community Surveyの調査
ここで興味深いのは、音楽とその他の収益の割合が6:4であることです。
何度も言いますが、アーティストは事業家であり、その事業のひとつが音楽なのです。
◆音楽やアートを学ぶ価値◆
商業音楽の道こそ正義だと思っていた頃の私にとって、音楽は競技のようであり、苦痛を感じるものでした。
しかし一歩引いてみた時、音楽を始めた頃の思いや、自分にとっての音楽そのものの価値を見つめ直すことになりました。
2010年から毎月開催しているオープンマイク(飛び入り参加可能な音楽イベント)には、のべ3,000組ほどのアーティストが参加してくださっています。
彼らはプロとかアマとか関係なく、音楽を愛し、表現し続ける場を持つことで人生を豊かに過ごしているのです。
私の音楽の原点は、幼少期の交通事故でした。
九死に一生を得た際にお世話になった人達へ恩返しをしたいと思うようになり、その方法が歌のスキルを磨いて人前に立って元気な姿を見せることでした。
思春期から大人になるまで、障害の残る自分の身体や存在そのものに負い目を感じていましたが、歌うことで自分を誇ることができるようになりました。
芸事に打ち込む日々が自分の心を整えてくれたし、周囲との関わり方も変えてくれました。
プロ意識をこじらせて一人孤独にジャングルを彷徨うような気持ちでいた時、同じようなサバイバー達と出会い、自分の生き方を肯定してもらえました。
それと同時に、自分のスキルや社会人としての未熟さを痛感しました。
ストイックにスキルを追求する時期が必要なのはもちろん、責任ある仕事をする上で、芸事以外のスキル(ここまで書いてきたようなこと/前編参照)を持っていることが必須であることに気付く機会になりました。
◆さいごに◆
今回お伝えしたかったのは、
・アーティストは事業家である
・芸事を学ぶ過程はセラピー効果がある
・芸事は自己肯定感向上に役立つ
・それらはアーティスト志望者以外にも役立つ
ただ、アーティスト教育にも一般の人材育成にも共通している課題が2つ残っています。
・論理的思考が苦手
・考えたことを実行する力がない
現代において、情報を持つことの優位性はもはやありません。
有益な情報をもとに本当に役立つ戦略を立てられる人は限られています。
戦略や企画を立てたり、課題を分析することが得意でも、それを実行して実現できる人はもっと限られています。
ここまでアーティストと一般的な話を分けて説明してきましたが、社会で活躍できる人材には共通点があります。
それは、絵空事を形にする強い意志と、継続するための努力を怠らない姿勢です。
音楽やアートを通じてそれを身につけることで、豊かな人生を送ってもらいたいと心から願っています。
皆さんのご活躍を願って本稿を終わりたいと思います。
私のプライベートレッスンや書籍の情報はこちらになります。
ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。
ありがとうございました。
NPO法人日本アーティスト協会 代表理事
アーティストキャリア専門家
ガリバー宇田川
日本アーティスト協会(HP)
▼Amazon4部門1位の著書「令和のアーティストの稼ぎ方」
※新著も近日発売予定です。
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